FBI(アメリカ連邦捜査局)も活用する事件時の人質救出のための交渉術
日本国内の様々な団体では当然の事、本場アメリカ国内では相手とのコミュニケーション術に関しては、いろいろなスキルを学べますが、それはあくまでも大学の講義室とかFBIの必須スキルとして閉ざされた空間で、予め想定された状況での話です。
そして、いざ、現実に銀行強盗などの人質立て籠もり事件が発生したとなると、刻々と変化する状況の中でヒートアップした犯人を説き伏せ、かつ、人質を安全に解放するという難事を、先が見えない緊迫した状況を打開する必要があり、交渉人(Negotiator)はそれまでに習った教科書的な細かいスキルについて、あれこれと考える余裕などないことが多いかもしれません。
この本の著者であるChristopher Vossは、ニューヨーク市の対テロリズム対策チームに在籍していたのと同時に、
- 世界貿易センター爆破事件(1993年)
- トランスワールド航空800便墜落事故(1996年。後日、テロ説は否定)
の研究も手がけていた人物。
1992年にはFBIアカデミー(バージニア州クアンティコ)で、特に人質立て籠もり事件でのNegotiation(交渉術)のトレーニングを受けた後、実際の事件現場でのNegotiatorを担当したようです。
そんな彼が挙げている事件現場で使えるテクニックの一部の例が下記の内容で、講義で学ぶような人間の心理とか脳科学といった理論的な内容は殆ど含んでいません。
現場で使えるようにするには、長々とした講釈ではなく、可能な限りシンプルである必要があり、彼が挙げているのは、
- 交渉は会話とラポール
- 事態打開の方法を発見するための会話(犯人を制圧するのが目的ではない)
というたった二つだけです。
それを少し具体的にすると、
- 傾聴
- 共感
となります。
この二つを有効に使うために、映画や海外のTVドラマでは、犯人とFBI交渉人の一対一のやりとりとして描かれますが、実際の事件現場ではFBI交渉人側は複数人で構成されたチームで行うらしいです。
その理由は、”人は聞きたいものだけを聞く” “相手が喋っている間に自分は次に何を言うか考えている” という人間としての性質で、一人では、バイアスが働いてしまい、これでは本当の傾聴にはならない、としています。
教室での講義や学習プログラムでは、実に様々なスキルやテクニックを学びますが、現場を経験した人からすると、この二つだけで事足りる、といったところなのでしょう。
その他の細かいテクニックの例を以下に挙げます。
- 相手の要求の深い意味、隠された動機などを知るために、適切かつ重要と思われる動詞を会話の最後に”3回”繰り返すこと
- 犯人とのやり取りでは相手の言葉に即座に答えるのではなく、戦略的にフレーズの間に適度な”間”をおく(約4秒)。
その間に犯人からの言葉をよく咀嚼し、次の言葉を選ぶようにする。
(一般的な人間は、相手が話している最中に、次に自分が何を話すか考え始めている傾向がある) - ヒートアップした犯人を冷静にさせるように、自分は”落ち着いた” “やさしい”声のトーンで話す。
- “how” から始まる質問形を上手に使う。
例
「人質を傷つけずに君の目的を達成するには、どうしたらいいんだい?」 - クローズド・クエスチョン(「はい」「いいえ」)で答える質問ではなく、オープン・クエスチョン(”What” “When” “How” から始まる質問を上手く使う)。
- 第三者的立場から見た、自分(交渉人)自身の過ちを認める。
- “言い換え”を上手に利用する
「君の言うことは正しい」を
You are right.
ではなく、
That’s right.
と言う。
ただし、日本語では難しいか? - 「誠実・正直であれ」
これに勝るスキル・テクニックはない
例
「どうやら私は君の事を差し置いて、自分の利益ばかり考えていたようだ」
「私は君を支配することばかり考えていた。すまない」
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