盲目の画家は脳で見ている

著名な画家として世界的に知られているピカソは、

「画家はというものは盲目の人にピッタリの職業」

と言ったそうです。

その理由は盲目の人であれば、その研ぎ澄まされた芸術的な感性で現実と言うものをはっきりと捉えることが出来る、との事。

私自身は全然知らなかったのですが、盲目の画家としてトルコ人画家のエスレフ・アーガマンという人が有名らしいです。

彼の両目は盲目でそれはこの世に生まれた時からですが、その一方で、彼の絵画は世界中の美術館に展示されていると紹介されていました。

ある時、アーマガンは著名な脳神経学者の研究室を訪れました。

目的はアーマガンがフリーハンドで絵を描いている時の脳の状態を専門の研究機関で計測装置を使って非侵襲的に観察・記録するためです。

その結果、驚くべき現象が観察されたのです。

生まれつき盲目であるアーマガンの視覚野(脳の視覚を司る部分)が健常者のそれと全く同じような活動を絵を描いている時に活性化していました。

測定結果だけを見ると、アーマガンの脳はまるで本当に描いている対象物を見ているかのように振舞うのです。

精密な検査により、アーマガンの目から入った情報を伝える神経は彼の脳には届いておらず、解剖学的にも一切の光による視覚情報は脳に届かない事は確認されています。

この秘密は「脳の可塑性」によるものだと考えられます。

アーマガンの脳の視覚野は本来であれば一生に渡り活躍の場を得られないままですが、別の情報である手からの「触覚」の情報を処理するのに一役も二役もかっていたのです。

この視覚野は手からの鋭敏な触覚による情報を自動的に画像情報に変換し、今度は再び手によってキャンパスに描き出す、といった処理を自動でかつ独学で身につけたものと考えられました。

この脳神経学者によれば盲目の人が点字を「読む」時には、言語処理をする脳の部分と同時に、上記の視覚野が活発に活動すると報告しています。

また、健常者が目隠しをして5日間程度点字の読解する練習を続けると、盲目者と同様、視覚野が活発に活動するようです。

その一方で、この5日間のトレーニング後、目隠しを取ると、たった数時間後には視覚野の活性化というこの現象が消失してしまいました。

この健常者によるテストで観察される現象は触覚情報を視覚情報に変換する新たな神経回路が神経細胞学的に形成されるにはあまりにも時間が短く、どこからか忽然と姿を表すと考えた方がよさそうだと、この学者はレポートしました。

この一時的な現象が長期間に渡り続けられると脳の可塑性は永久的なものになり、盲目の画家アーマガンのような驚くべき能力が発揮されるようになるのでしょう。

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