エリクソン催眠:相手の印象に残るスピーチの必殺テクニック・鉄板パターン
以前のエントリー
で、プロのスピーチライターによるスピーチ・テクニックの紹介をしましたが、以下の点を追加情報として挙げておきます。
「TEDトーク 世界最高のプレゼン術 [ペーパーバック]」のアマゾンの紹介文より引用。
- 聴衆が最も注意を傾けているのは、スピーチが始まって最初の10秒から20秒間
- 「論理的な事実」と「感情に訴えかけるストーリー」を組み合わせる
- キャッチフレーズは最低3回は繰り返そう
- プレゼンターはけっして聴衆より優位に立ってはいけない
- スピーチはしょせん普段の会話の拡張版である
- 話すときは、誰かに1対1で熱心に語りかけるように
- 小学6年生が理解できるレベルの言葉を使う
- あなたが経験したことや見たものから引き出したストーリーを語ろう
- エゴを見せてはいけない。ほんの少しでも自己宣伝の匂いがすれば、聴衆は興味を失う
- 一気に話し、適度に間を置く。「間」が聴衆の注意を引きつける
- ユーモアを駆使する。ユーモアの根は「驚き」にある
- 話している間、まず両手は楽にして脇に下ろしておく。腰から上、首から下の部分で自然なジェスチャーをしよう
- スライドを使わないプレゼンがベスト。使うとしたらシンプルに、色は5色まで
- きちんと検証できる環境で、最低3回はスピーチの練習をしよう
- 聴衆は、あなたのプレゼンがうまくいってほしいと思っている
(引用終わり)
あと、少し前に、記憶では2チャンネルの投稿に、東京オリンピック招致時の安倍総理のスピーチはプロのスピーチライターが書いたものだ、という情報があったので、興味ついでにそのスピーチを見てみました。
私個人の見解としては、どうも、NLPのスキルというか、エリクソン催眠の言語パターンを使っている気がしてなりません。
エリクソン催眠の1つの流れとしては、おおまかに、
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相手にとっての「絶対的な事実」を述べることによるペーシング
↓
カウンティングによる催眠深化・トランス誘導
↓
ストーリーテリング(Story Telling)により、相手の無意識にメッセージを送る
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ということがあるでしょう。
安倍総理のスピーチはあくまでも、西欧諸国の人たちに向かって行われたものであることから、日本語訳は同時通訳にお任せすることとして、ここでは、あえてその英文全体を紹介したいと思います。
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Mister President, distinguished members of the IOC…
It would be a tremendous honour for us to host the Games in 2020 in Tokyo ? one of the safest cities in the world, now… and in 2020.
Some may have concerns about Fukushima.
Let me assure you, the situation is under control.
It has never done and will never do any damage to Tokyo.
I can also say that, from a new stadium that will look like no other to confirmed financing, Tokyo 2020 will offer guaranteed delivery.
I am here today with a message that is even more important.
We in Japan are true believers in the Olympic Movement.
I, myself, am just one example.
When I entered college in 1973, I began practicing archery.
Can you guess why?
The year before, in Munich, archery returned as an Olympic event after a long time.
My love of the Olympic Games was already well-established.
When I close my eyes vivid scenes from the Opening Ceremony in Tokyo in 1964 come back to me.
Several thousand doves, all set free at once.
High up in the deep blue sky, five jet planes making the Olympic rings.
All amazing to me, only 10 years old.
We in Japan learned that sports connect the world.
And sports give an equal chance to everyone.
The Olympic spirit also taught us that legacy is not just about buildings, not even about national projects.
It is about global vision and investment in people.
So, the very next year, Japan made a volunteer organization and began spreading the message of sports far and wide.
Young Japanese, as many as three thousand, have worked as sports instructors in over 80 countries to date.
And they have touched the hearts of well over a million people through their work.
Distinguished members of the IOC, I say that choosing Tokyo 2020 means choosing a new, powerful booster for the Olympic Movement.
Under our new plan, “Sport for Tomorrow,” young Japanese will go out into the world in even larger numbers.
They will help build schools, bring in equipment, and create sports education programs.
And by the time the Olympic torch reaches Tokyo in 2020, they will bring the joy of sports directly to ten million people in over one hundred countries.
Choose Tokyo today and you choose a nation that is a passionate, proud, and a strong believer in the Olympic Movement.
And which strongly desires to work together with the IOC in order to make the world a better place through the power of sport.
We are ready to work with you.
Thank you very much.
———-
先ずは、スピーチの冒頭に、福島原発の事故のことについて言及しています。
見方によっては、原発事故について言及することは聴衆(IOC委員)に対してネガティブな印象を与える可能性がありますが、逆に言えば、この事は、世界中の誰もが知っている「絶対的な事実」です。
スピーチライターは、この点に注目して、あえて原発事故についての述べることにしたのでしょう。
また、日本国内では一部議論を起こしましたが、「the situation is under control(状況はコントロールされている)」という表現も、よく考えてみると、「では、具体的にはどういった状況か?」というという内容が全く不明で、NLPのミルトン・モデル的な表現です。
さて、以下の箇所から、聴衆はストーリー・テリングの威力により、否応なしにトランス状態へと誘導。
“When I close my eyes vivid scenes from the Opening Ceremony in Tokyo in 1964 come back to me. Several thousand doves, all set free at once. High up in the deep blue sky, five jet planes making the Olympic rings.”
このフレーズを聴いた聴衆は、脳の機能で自動的&強制的に(個人の差はあれど)自分の心に描いた何かしらのイメージ
「目を閉じれば・・・」(催眠の場合、主語は関係ない)
「一斉に舞い上がる、何千羽もの鳩」
「ジェット機により、真っ青な空に、空高く描かれるオリンピックの5つの輪」
の世界に意識を向けることになります。
同時に会場正面のスクリーンには、全く東京そのものをを意識させない、イメージ強化のための写真が写されたようです。

ニューコードNLPでいえば、それまで、4Te(外的五感)の世界にアクセスしていた状態から(アップタイム・トランス)、一気に、4Ti(内的五感)の世界へと誘導されることになります(ダウンタイム・トランス)。
そのあと、
“Young Japanese, as many as three thousand, have worked as sports instructors in over 80 countries to date. And they have touched the hearts of well over a million people through their work.”
この言い回し
3000人もの若き日本人
↓
80カ国にもわたりスポーツインストラクターとして
↓
百万人以上の方々の心に触れてきた
は、以前の投稿「オバマ大統領が使ったNLPテク (9)」でオバマ大統領が使った
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“Sixteen months”
“Thousands of miles”
“Millions of voices”
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とまるっきり一緒とも考えられます。
最後に、
“choosing Tokyo 2020 means choosing a new, powerful booster for the Olympic Movement.”
という形で、リンク・ステートメントが使われています。
ミルトン・モデルとは反対のスキルである、メタ・モデルの視点で言えば、
「東京を選ぶということ」
と
「オリンピックの潮流に、新しく、力強い推進力を与える」
ということは、よく考えれば、何にも関係のないことです。
また、”a new, powerful booster for the Olympic Movement” という事についても、「では、具体的にはどういった事柄なのか?」ということについてはサッパリ分かりません。
すなわち、このリンク・ステートメントにより、聴衆(IOC委員)の無意識に対して、「Tokyoに投票しろ」というメッセージを送っています。
この後に出てくる
“Choose Tokyo today and you choose a nation that is a passionate, proud, and a strong believer in the Olympic Movement.”
も全く同じ目的を持ち、さらには、別のいくつかのテクニックが「埋め込まれた」ステートメントと考えられます。
あとは、スピーチ全体を通して、日本人である(英語がネイティブではない)という立場を利用して
- ゆっくりと
- 適度に間を空けて
話しています。
エリクソン催眠の言語パターンとは離れますが、
- 英語圏では「マジック・ナンバー “3”」と言われるように、3回の言葉を変えた繰り返し表現が随所に見られます。
例えば、
“They will help build schools, bring in equipment, and create sports education programs.”
ここで詳しい話をすると、英会話レッスンの話になってしまうので、詳細は端折りますが、上記のような3回の繰り返し表現を用いることにより、英語圏においては、
「彼らは、(3つの事柄以外にも)数多くのことを help するのだ」
という意味を言外に暗示することになります。
- あるいは、文章の接続詞は、すべて、”And” であり、”But” は用いられていない。
- 色彩心理学的には、アメリカ大統領の服装によく見られるように、カラーコーディネイトは、「青+白」の鉄板パターン。
本来であれば、ここでワンポイントに「赤」があれば完璧なのでしょうが、何か意図があったのでしょうか?
といったところでしょうか?
真偽のほどは不明ですが、このスピーチの原稿はプロによるものである、という情報はあながち嘘ではないのかもしれません。
さすがに、このスピーチが東京招致の決定打になったとは信じ難いですが、NLPやエリクソン催眠の視点でいうと滅多にお目にかかれない、エリクソン催眠の技法を利用したスピーチの実例の1つだと言えるでしょう。
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