オリンピック金メダルをもたらしたポジティブ心理学
マット・ビオンディという水泳選手をご存知でしょうか?
少々時代は古くなりますが、1988年に開催された、ソウル・オリンピックで、50m、100m自由形及び400mリレー、800mリレー、400mメドレーリレーの5種目で金メダル、さらに100mバタフライで銀メダル、200m自由形で銅メダルの合計7個のメダルを獲得という驚異的な記録を残したアメリカの選手です。
結果だけ見ると驚きは隠せませんが、中には、コンマ数ミリ秒の差で金メダルを逃した試合もあります。
それは、100mバタフライ。
ポジティブ心理学の開発者であるマーティン・セリグマン博士の「オプティミストはなぜ成功するのか」にも書かれていますが、この試合で、ビオンディ選手は他の選手を圧倒して首位にたっていましたが、ゴールまであと2メートルの所で、急に失速してしまい、まさに「あとひとかき」というところで、それまで2位だったアンソニー・ネスティ選手に逆転をされ、手中に収めていた筈の金メダルを逃してしまいます。
以前のエントリーでも書きましたが、北京オリンピックの日本代表競泳チームに加わり、北島康介選手のメダル獲得の一助となった日本の脳科学者が提唱する「勝負脳」という概念では、脳はゴールが見えると勝ったと認識した途端、選手のパフォーマンスをダウンさせるように、身体に指令を出してしまう、というものです。
ですから、選手にはゴールにタッチしたのがゴールではなく、タッチして電光掲示板の自分の結果を振り返って見る時が「本当のゴールだ」と指導したようです。
まさに、ビオンティ選手は、その代表的な例とも見てとれるでしょう。
さて、話はポジティブ心理学に戻ります。
恐らく、大多数の場合、このような負け方をした場合、選手はガックリしてしまい、次の試合からは自分の持つパフォーマンスを発揮できずにズルズルと下落してしまうでしょう。
しかし、セリグマン博士は、そうは考えていませんでした。
実は、本にも書いてあるように、セリグマン博士はオリンピックの4カ月前に、米バークレイでビオンティ選手の楽観度を博士自身が開発したテスト(ASQ)によって測定してあり、彼の楽観度は高く、次以降の試合でもメダルを獲得できると予想していました。
そして、結果はセリグマン博士の予想の通り、後半の5種目で5個の金メダルを獲得しました。
ところで、どうしてセリグマン博士は、オリンピック前にビオンティ選手の楽観度に関するデータが得られたのか?
実はバークレイ校の水泳チームのコーチの方から電話があり、選手の楽観度を測定してほしいとの依頼があったようです。
本にも書いてありますが、ここで私の言葉で書くよりも、本の内容をそのまま書いたほうが面白いので、引用します。
さらに、前提として、昨日までのエントリーの2つの記事(「仕事で優秀な成績をおさめる人 (1)」「仕事で優秀な成績をおさめる人 (2)」)に目を通しておくと面白さは倍増します。
以下、「オプティミストはなぜ成功するのか」より引用。
ノート(水泳チームのコーチ)とは電話でしか話したことはない。
最初にノートが電話してきたのは1987年3月のことだった。
「先生の保険の外交員についての研究を読んだのですが、同じことが水泳にも言えるのではないかと思うのです。その根拠というのは・・・」
私は興奮して、「イエス!イエス!」と叫びたくなる気持ちを必死にこらえて、ノートの話を聞いた。
(引用終わり)
水泳チームのコーチは、早速、セリグマン博士が提唱する概念の1つである、「説明スタイル」(NLPではメタモデル)によって、野球やバスケットボール、保険のセールスマン同様、敗北に対する対応の仕方で、その後の成績がどのように作用するのか調査した。
シーズン最後にセリグマン博士は、各選手に自分の得意種目を全力で泳がせた。
そして、その結果を、コーチは実際の記録よりも、「嘘とはバレない程度に」選手に悪く伝えた(種目により1.5~5秒)。
暫くの休憩の後、再び同じ種目を全力で泳がせたところ、ペシミストは予想通り、成績が落ちた。
中には、実戦でのトップとビリ位の差が出た選手もいたようです。
そして、ビオンティ選手。
彼の場合、オプティミストである事が既に分かっており、実際、さらに速い成績をたたき出したとの事。
オプティミストの場合、ペシミィストの場合とは逆に、2~5秒もタイムを縮めた選手もいたようです。
以上のような結果を踏まえて、セリグマン博士は、「コーチへの提言」というものを本書に記載しています。
以下、「オプティミストはなぜ成功するのか」より引用。
- ASQは普通の人が直感では知りえない楽観度を計る。
楽観度は経験を積んだコーチやバスケットボールのハンディキャッパー以上に選手の成績を予測する力がある。- 楽観度によって、いつ特定の選手を使うべきかがわかる。
大事なリレー競技に、有能な選手ながら前回の個人競技に敗れたペシミストが出場する予定だとすれば、代わりの選手を出したほうがいい。
ペシミストは良い成績を出したあとだけ使うべきだ。- 誰を採用するかは楽観度によって決めるべきだ。
素質が同程度なら、オプティミストの方が長期的にはよい成績を上げる。- ペシミストの選手も訓練によって、オプティミストにすることができる。
(引用終わり)
上記競泳チームのコーチは、悲観的な選手を楽観的に変えることが可能か?とセリグマン博士に尋ねたところ、博士は「現在、開発中」との答えでした。
ただし、これは、上記の本が出版された1980年代の話であり、それから30年後の現在、このプログラムは実行可能です。
セリグマン博士の提唱する概念の1つである「説明スタイル」はNLPでいうところのメタモデルと同じものと考えられますので、ビリーフチェンジのワーク、もしくは、催眠療法の暗示のパワーでいけるんじゃないかと思います。
もしくは、もっと大衆的になり読みやすくもなっていますが、既に絶版となったようですが、英国のリチャード・ワイズマン博士が書いた「運のいい人、悪い人―運を鍛える四つの法則」もいいのでは?と思います。
因みに私はアマゾンから中古本を買いました。
そして、購入して読んだあとは、自炊してハードディスクの中へ。。。
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