こころの目

催眠は、意識を集中させる一つの方法である。

そして、こころに映像を描くことで特定の効果を得ようとする「心理的イメージ療法」は、さまざまな議論を呼んでいるが、しかしまた興味もそそられる方法だ。

実際、こころに鮮明な映像を思い浮かべるだけで、多くの人々が身体的な効果を引き起こすことができる。

そこには、なんらかの特異なプロセスが関与しているのであろうか。その効果は一体どれほど大きなものなのか。人の健康をある方向に導くことが出来るほどに強い影響力をもつものなのか、などといった疑問が次々と湧いてくる。

ほとんどの催眠療法の専門家たちは、心理的イメージ療法を催眠療法のなかの「自己催眠」の一種と考えている。

実際、催眠療法と比較しても、そう神秘的で謎めいているという訳でもない。

不思議な音楽をかけたりもするが、イメージ療法はフランツ・メスメルの現代版の一つにすぎない。

しかし、カール・サイモントン医師のような人々は、この方法は明らかに新しい治療法だと確信している。

しかし、精神神経免疫学の専門家たちは、こうした治療法の効能により慎重な態度をとりつつ、この領域を研究と洞察の宝庫であると考えているのだ。

イメージ療法はいくつかのレベルに働きかれるが、イメージが自律神経系のような不随意の生体機能にも影響しうることを疑う人は、是非、次に示すイメージ訓練を試みてほしい。

始めるにあたっては、静かな部屋の中でゆったりと腰かける場所を探し、落ち着いて体をリラックスさせる。

では、耳を傾けて、はっきりとイメージを浮かべてみよう。

● イメージ訓練

今、あなたは、台所にいます。

見慣れた台所には、使い慣れた流しと、ガスコンロ、それに冷蔵庫が並んでいます。

冷蔵庫のドアを開けてみましょう。ポッと小さなランプがつきました。冷気が微かに吹きつけてきます。

中を見回して、レモンの入っているところを探しましょう。たしか引き出しの中でしたね。

レモンを手にとってみます。手のひらにヒンヤリとした感触が走ります。冷蔵庫のドアを閉めましょう。

レモンを手にとって、その重さを実感してみましょう。

ちょっとだけ強く握りしめてみます。その弾力をもった固さが感じられます。

その表面を見つめてみましょう。そこには、小さなツブツブが沢山あります。その両端はツンと尖っていますね。

レモンを置いて、お気に入りのよく切れるナイフを取り出して、両端から真っ二つに切ってみましょう。

その片方を取り上げて、みずみずしい切り口を眺めてみます。小さなレモンの袋が見えますね。よく見ると、レモンの汁の小さな粒が出来はじめています。

ほんの少し絞ってみると、レモンのしずくが集まって一面に吹き出しました。

さあ、口をくちをつけて、すっぱいレモンジュースを味わってみましょう。あーすっぱい!

たくさんの唾液がでましたか。

一般的にはどんな集団でも約半分の人が、こうしたイメージ療法に反応を示します。

長年にわたって、あらゆる分野の研究者たちがイメージ療法の効果を唾液腺の機能を亢進させるといった単純なことから、もっと複雑なものまでに応用してきた。

とりわけ、健康に対するイメージ療法の科学的応用という分野は、まだ歴史こそ浅いが、多くの医師たちがその可能性について注目している。

ジョージ・ワシントン大学生化学教室の神経内分泌学者ニコラス・ホールもその1人である。

ワシントン精神医学校で、ガン患者に対するイメージ療法の研究に参加した時に経験した時に経験した特異な症例について、彼は次のように述懐している。

「それは、60代半ばの引退した学校長のケースでした。彼には、実験の一環として、毎日、イメージ療法の感想を日記に丹念に記録してもらいました。彼は、その実験に大いに乗る気になり、研究のための採血に影響しないようにと化学療法を何回か延期したほどだったのです。」

ホールの役目の一つは、その男性の血液中のサイモシンというホルモン値を追跡することだった。

ホールの説明によると、サイモシンは免疫反応を強めるのに非常に重要だということだった。

従って、その濃度は人の免疫機構を測る指標となったのである。

そして、それが、日記に記された気分や態度と対照された。

イメージ療法がうまくできたと感じた日には、サイモシンの値が高かった。

逆に、イメージ療法がうまくできなかったと日記に書いてあった日には、サイモシン値は低かった。

ところが、なんと研究の最中に、彼の奥さんが突然亡くなってしまったのである。

その日の日記には、もう実験には全く興味がなくなってしまった、と記されていた。

また、その日の採血の結果は、サイモシンの顕著な低下を示していた。

彼は、イメージ療法を中断したまま、二ヶ月後には亡くなってしまった。

ホールし言う。

「ガンとの闘病生活に、妻を失った挫折感が加わり、彼はもう耐えることが出来なくなった。生きる希望をまったく失ってしまったんです。」

ホールのような実験例は、疑問を解くどころか、また新たな疑問を増やすことになった。

一体、イメージ療法が本当に彼を生かし続けたのか。それが、かれの健康状態に何らかの影響を与えていたのか。

治癒に繋がるような効果的なイメージと効果のない、危険ですらあるイメージが存在すると主張する人々がいるが、本当にそうなのだろうか。

ホリスティックな癒し支持者たちの確信にもかかわらず、「はっきりとしたことは何もわかっていない」というのが、これらの疑問への回答である。

これまでの確証からいえることは、イメージ訓練に何らかの効果はあるようであるが、特定のイメージに特に効果があるわけではなさそうである。

絶対的に健康なイメージというものはなさそうだ。

イメージが健康的な効果を持つかどうかは、回復への希望を持つ時と同じように、そのイメージを使う人がどのくらい幸福で安心した気分を実感できるかによるのだ。

そのことが、健康に対する影響を左右する。

ニセの(演技上の)感情でさえ生理的な変化を引き起こすのだから、実際の感情なら内部環境に未だに知られていない微妙な変化をもたらすに違いない。

こうした変化は、免疫系においても神経化学的に、あるいは神経生理学的に微妙な変化を及ぼすことになるだろう。

しかし、視覚的なイメージが直接免疫機能を働かせ、それが脳において「脳細胞化学情報」に翻訳されると言い切ってしまうのは、まだあまりにも性急すぎる。

なぜなら、そうした態度は、人体の複雑さと病気の実態を十分考慮していないからだ。

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